校舎をわたる風が、少しずつ秋の色を運び始めた今日このごろ。
福島小学校に、また新しい音が満ち始めました。音楽会に向けた練習の始まりです。
体育館に集まった、全校児童。
先生のピアノの音に合わせて、最初の歌声が響きます。
それはまだ、一人ひとりの声。
高学年のしっかりとした声、中学年の澄んだ声、そして、入学して半年が経った一年生のかわいらしい声。音の高さも、歌い出すタイミングも、息づかいも、みんなばらばらです。けれど、それもまた、一生懸命さのあらわれ。自分のパートを、自分のメロディーを、確かめるように歌う子どもたちの姿があります。
先生の指揮をきっかけに、子どもたちの意識が、自分の内側から外側へと向かっていきます。
ざわめきがすうっと消え、空気が澄んでいくのがわかります。
そして、再び歌い始めた、その瞬間。
魔法が起きたかのように、ばらばらだった音が一つの流れになりました。違う高さの音が、パズルのピースがはまるように組み合わさり、美しい「響き」が生まれます。ハーモニーが生まれた瞬間です。
その変化に、誰より早く気づいたのは子どもたち自身でした。
「あ…」と、誰かの驚きの声がもれ、歌いながら、隣の子と顔を見合わせてにっこりと笑いました。その表情は、「できた!」「きれいだね!」と、声なき声で語り合っているようでした。
自分の声が、誰かの声と重なる心地よさ。
みんなで一つのものを作り上げる、静かな喜び。
子どもたちは、楽譜からは学べない大切なことを、心と体で感じ取っています。

授業では、楽器パートに分かれての練習が始まりました。鉄琴の涼やかな響き、ドラムの激しい鼓動、リコーダーや鍵盤ハーモニカの懐かしい音色、お互いの音を聴き合い、支え合う。先生が階名で歌うCDが、子どもたちのゆく道を照らします。
「ドードードー♪」
CDから流れる先生の歌声に合わせて、子どもたちは楽器を演奏します。楽譜からの情報に加え、全体のメロディや音の長さが実際に分かって、子どもたちも安心です。
難しい音程に苦戦しながらも、CDに耳を傾けながら友達と教え合う姿は真剣そのものです。

驚くのは、休み時間です。
チャイムが鳴ると、誰に言われるでもなく、何人もの子が音楽室へ向かいます。おのおの楽譜を手に、自然と練習が始まります。校舎には、途切れることなく子どもたちの歌声や音楽が響いています。福島の日常に、音楽が溶け込んでいるのです。
一つの歌を、みんなで完成させていきます。
これは、私たちの社会や生活と、どこか似ているかもしれません。
一人ひとりの個性(声)は違っていても、お互いに耳を傾け、尊重し合うことで、想像もしていなかった美しい調和(ハーモニー)が生まれます。
子どもたちの歌声に耳を澄ませていると、そんな当たり前で、とても大切なことを思い出させてくれます。そして、教室の窓から夕陽を眺めながら、仲間と声を合わせた、あの遠い日の記憶がふっと胸をよぎるのです。
今年の音楽会では、どんなハーモニーが響くのでしょうか。
子どもたちが紡ぎ出す一瞬一瞬の音を、大切に見守っていきたいと思います。
